2026.06.29ぶち上げインタビュー

ぶち上げインタビュー「誰かを幸せにすることに、僕はストレスを感じない」——金融×AIで証券営業を再発明する27歳。nicosphere・高桑基生さん

「誰かを幸せにすることに、僕はストレスを感じない」——金融×AIで証券営業を再発明する27歳。nicosphere・高桑基生さん

承認欲求が自分の原動力だとまっすぐ言い切る経営者がいる。

この記事の要点

  • 01「泣けることが、価値となる世界をつくる」をビジョンに掲げ、生成AIの受託開発と自社プロダクトを手がける、東京・二子玉川発のAI開発企業だ。
  • 02——「泣けることが価値となる世界をつくる」というビジョンが印象的です。
  • 03だから僕自身も、自分の役割として「誰かの人生の1シーンを預かっている自覚を持つ」ということを、いつも大事にしています。

※ 人生ぶち上げch編集部が本文をもとに整理した独自の要約です。

承認欲求が自分の原動力だとまっすぐ言い切る経営者がいる。

株式会社nicosphere。「泣けることが、価値となる世界をつくる」をビジョンに掲げ、生成AIの受託開発と自社プロダクトを手がける、東京・二子玉川発のAI開発企業だ。今回お話を伺ったのは、その金融IT部門統括を務める高桑基生(たかくわ・きお)さん。1999年生まれ、今年27歳。元・野村證券のトップセールスであり、いまは独立系の証券アドバイザー(IFA)として個人で動きながら、nicosphereの金融×AI事業を一手に引き受けるという、二足のわらじの人だ。

大阪に生まれ、親に「敷かれたレール」を歩み続けた幼少期。日本拳法からラグビーへ。常翔学園、関西大学、そして新卒で飛び込んだ野村證券。何度も鼻を折られながら、それでも「誰かに認められたい」という熱だけは消えなかった。そんな彼が、入社4年目のある日ふと立ち止まる。「俺、何のために頑張ってるんやろう」——。

その問いから始まった自己分析が、彼の人生のピントを合わせた。以下、高桑さんが語ってくれた、承認欲求のその先にあった「自分の強み」の話。そして、AIで金融業界そのものを書き換えようとする、いまの挑戦について。

【プロフィール】

会社名:株式会社nicosphere

役職:金融IT部門統括

氏名:高桑 基生

まず、nicosphereという会社について——「泣ける仕事」を判断軸に

受託開発がエンジン、自社プロダクトが未来

——まず、nicosphereさんの事業内容を教えてください。

高桑さん:大きく二軸あります。ひとつは生成AIの受託開発業。中小企業さんからオーダーをいただいて、ニーズに沿ったプロダクトを要件定義から自社で制作して、納品まで一気通貫でやるというものです。

わかりやすい例で言うと、直近で金型を作っている製造業の会社さんがあって。これまでは営業の方が取引先から設計図を受け取って、自社のCADソフトで「ここに穴を開けて」「ここを溶接して」と読み解いて、コストを計算して、見積書を出して……というフローがあったんですね。そこを、図面をAIに投げてしまえば、全部AIが自動で計算して、読み取って、適切な見積りまで作成する。自動化できるところは概ねすべてAIに置き換えて、DX化する。それが受託開発のメインです。

もうひとつが自社プロダクト。請求書や領収書をスマホで撮るだけでAIがデータ化する「NicoScan(ニコスキャン)」。これは個人事業主の方によく使っていただいています。そして先月リリースしたばかりの「IFAI(アイファイ)」。証券営業・IFA向けのAI投資分析ツールです。

「泣けるかどうか」で仕事を選ぶ

——「泣けることが価値となる世界をつくる」というビジョンが印象的です。

高桑さん:そうなんです。熱狂できるか、誇れるか、誰かの人生を豊かにできるか。そして、それが長期的に価値を生むか。そのすべてにYESと言える仕事かどうか——それを判断軸にしている会社なんですよ。だから僕自身も、自分の役割として「誰かの人生の1シーンを預かっている自覚を持つ」ということを、いつも大事にしています。

IFAでもあり、AI企業の役員でもある——二足のわらじの理由

名古屋を拠点に、東京・大阪・福岡を行き来する

——高桑さんご自身は、IFAとnicosphere、どういう関わり方をされているんですか?

高桑さん:ちょっと複雑なんですけど(笑)。キャッシュエンジンで言うと、僕個人は独立系の証券アドバイザー、いわゆるIFAなんですね。それとは別に、nicosphereの取締役というか、金融IT部門の統括としてジョインしている。金融とDXのところは、基本的に僕が責任者として進めています。

逆にエンジニアとしての能力は、僕はまったくないので(笑)。他の役員陣はほとんど野村證券上がりで、代表の三浦は楽天出身のエンジニア。その他のエンジニアは役員1名と業務委託になります。非常に珍しい組み合わせの会社なんです。

拠点は名古屋に置いています。証券業の関係で、東京にも大阪にも福岡にも行きやすいので。月の半分くらいは名古屋にいて、あとは飛び回っている感じですね。

すべては「親に敷かれたレール」から始まった

日本拳法、そしてラグビーへ

——幼少期は、どんなお子さんだったんですか?

高桑さん:率直に言うと、幼少期から大学を卒業するまで、基本的に親に敷かれたレールを歩いていました。

最初は日本拳法。武道ですね。「若いうちは個人種目で誰かに勝つ、一番になる、その結果だけにフォーカスする経験をしてほしい」という親の考えで習わされて。小学5年で「もうやめていいぞ」となって、今度は先にラグビーを始めていた兄の影響で「ラグビーをしろ」と。これも「団体競技で誰かと一緒に何かを作り上げる経験が、最終的に社会で活きる。云わば協調性」という親の考えでした。

モテるんですよ、ラグビーができると

高桑さん:これが正直に言うと、ある程度できちゃったんですね。中学では大阪府の選抜に選ばれて。ラグビーができて、スポーツもできると、小学校でも中学校でもモテるんですよ。大会で平日休むのも「かっこええやろ、俺」って。

今振り返ると、すごく承認欲求が強かった。それが自分の糧だったんです。親も喜んでくれるし。高校は推薦で全国で5回優勝している強豪校に進学しました。

何度も「鼻を折られた」——挫折の連続

強豪校で、はじめて自分の小ささを知る

——常翔学園での3年間は、どうでしたか?

高桑さん:一番衝撃だったのは、一回しっかり鼻を折られたことですね。すごい選手がいっぱいいて。それまで承認欲求で「かっこええやろ」と来ていたのが、いきなりそこに行くと通用しない。ミスをしないように様子をうかがいながら、誰かに好かれるように、評価されるように生活する。承認欲求にプラスして、誰かからの共感を求める3年間でした。

結果は全国大会ベスト32。個人としては国体の大阪府代表に選ばれて、日本一にもなれた。当時のメンバーが今ラグビー日本代表で活躍していたりして、僕がほぼ唯一ラグビーをしていないくらいなんですけど(笑)僕が唯ーラグビーをしていない人かもしれないです。

「プロは無理だ」と気づいた大学2年

高桑さん:大学はラグビーで一番早く声をかけてくれた関西大学に決めました。親は「同志社くらい行けるまで頑張れば」と言っていたんですが、ここで初めて親のレールをちょっと外れた。

でも、入ったら逆にめちゃくちゃ弱かったんですよ。関西のトップリーグでも最下位、入れ替え戦ギリギリみたいな。練習をやってみると、高校時代の環境とまったく違う。それでも自分は試合に出られていたし、このままプロになれるんだろうなと思っていたら、2年のときに「あ、これプロは無理だな」と。体のサイズ感も含めて、現実が見えた。そこで一気に就職活動に切り替えました。

野村證券で、また鼻を折られる

「見栄えで入った」会社で味わった現実

——野村證券に入社されてからは?

高桑さん:金融のことは何もわからなかったんですよ。要は見栄えで入ってるんです。「ここ入ったらかっこええやろ、お金もらえそうやから」という軸で。

入ってみると、周りは経済学部や商学部出身で、金融知識を持っている人が多い。体育会系は同期の2〜3割くらいで、ほとんどが早慶やMARCH、東大・京大もいる。また鼻を折られて、「これ無理ちゃうかな」と。

ただ、唯一そこを救ってくれたのが、ラグビーに向けていた熱をそのままピボットするだけでよかったこと。「誰かに勝ちたい」「認められたい」、その熱はまったく変わっていなかった。朝4時に起きて新聞を読んで、6時には帰って勉強して。ゴールデンウィークが明ける頃には、金融知識の差がかなり縮まっていました。

「北九州?福岡?どこだ」と思った北九州が、最高のマーケットだった

高桑さん:1年目はコロナ禍の特殊な世代で、飛び込み営業ではなくコンタクトセンター配属だったんです。東京で毎日150本くらい電話をかけて。その分、勉強する時間を確保できた。これは結果的にすごくよかった。

支店配属は2年目の3月、福岡県北九州市の小倉でした。正直、最初は「おー、福岡県?福岡支店でなく、北九州?どこだ」と思いました(笑)。同期はコスト削減でほとんど東京の近くに配属されていて、飛行機移動の同期と「俺ら捨てられてるやん」って。

でも、これが大間違いだった。北九州は八幡製鉄所で栄えた街で、安川電機さんやTOTOさんみたいな上場企業もあって、地場の中小企業が本当に元気なんです。鉄で栄え、ストックが溜まり、キャッシュリッチな企業が多くあって、リスク耐性も高い。先輩から「ここで成果が出なかったら、どこでも出ないぞ」と言われたくらい、最高のマーケットでした。

「俺、何のために頑張ってるんやろう」——人生のピントが合った瞬間

トップセールスになって、ふと立ち止まった

——転機はいつ訪れたんですか?

高桑さん:3年目に、同職位の1〜3年目でトップセールスを取れたんです。頑張って頑張って、結果が出た。その瞬間、ふと思ったんですよ。「あれ、俺、何してるんやろ」って。

一番になって、みんなから称えられて。でも、お客さんはそんなに喜んでいないし、パフォーマンスも良くなっていない。「これ、何のためにやってるんやろう」と。

承認欲求の「裏側」に気づいた

高桑さん:それで4年目に、自分の人生を一度見つめ直したんです。自己分析をして。過去を遡ると、ずっと承認欲求で生きてきた自分がいた。でも、その裏側にあるものに気づいたんですよ。

承認欲求って、突き詰めると「誰かが喜んでくれること」「誰かを笑顔にできること」なんですよね。そして僕は、そこに対してノンストレスで動けている。つまり——誰かを幸せにすることに対して、自分はストレスを感じない人間なんだ、と。

であれば、その領域で頑張り続けることが、一番自分のバリューを発揮できる。それに気づいた瞬間、人生の筋が一本につながった感覚がありました。

なぜ証券業を辞めず、AIの会社に飛び込んだのか

「お客様と一生付き合う」ために独立した

——その気づきが、独立につながったんですね。

高桑さん:そうです。だからこそ、証券業は絶対にやめちゃいけないと思った。お客様、特にご法人と一緒に栄えていける仕事ですし、お付き合いのきっかけが「高桑」である以上、一生関わらせていただく必要がある。それで証券業で独立する、という選択になりました。

中小企業の「人が足りない」を、DXで解く

高桑さん:証券マンとして感じたのが、野村では何でもできたんですよ。不動産も保険も、何なら航空機だって。でも唯一できなかったのが「融資」と「採用」だった。

特に採用です。地方やブルーカラーの中小企業って、案件は山ほどあるのに、人が足りなくて受けられない。Instagram広告を出しても、今の時代なかなか人は来ない。じゃあどうするか——DX化だな、と。

AIで自動化すれば人手がいらなくなる。利益率が上がる。利益率が上がれば給与も上げられる。給与が上がれば「うちの方が給料が高い」と採用にもつながる。これは課題解決のソリューションになる、と確信したんです。

そんなときに、同じくIFAをやっていた野村の後輩が、幼なじみと立ち上げていたのがnicosphereだった。縁があって、2026年3月に参画することになりました。

IFAIに込めた思想——「言い訳できない武器」をつくる

1日500円で、専属アナリストという相棒を持てる

——プロダクト「IFAI」の強みはどこにありますか?

高桑さん:明確に2点あります。ひとつは時間創出です。

証券のセールスって、朝早く起きて、前日のアメリカ市場をまとめて、新聞やニュースを読んで……という情報収集が必要なんですね。でも、やっていない人が大半。やっても時間がかかる。そこをAIの力で、さまざまなニュース媒体をひとつにまとめて、自動要約する。どのニュースがお客様にとって重要なのか、僕自身——元・野村のトップセールスとしての考えをAIに教育させて、トレースできるようにしている。ClaudeとGPTとGeminiを掛け合わせたエンジンです。

もうひとつはコスト。月額1万円なので、1営業日あたりに直すと500円なんですよ。500円で、自分専属のアナリスト、つまり「相棒」を持てる。証券マンの時給を考えたら、ありえない安さです。会社にいない時間で情報収集して、会社ではお客様に向き合う時間に集中してほしい。そういう思想で作りました。

「今の対面証券は、甘えが生まれている」

高桑さん:もうひとつ、業界の課題を変えたいという思いがあります。今の対面証券のセールスって、正直、甘えが生まれているんですよ。

昔は自分の相場観や勉強した知識があってこそ、お客様に価値を伝えられていた。でも今は投資信託が中心になって、セールス自身の能力が落ちている。高い手数料を払っているのに、担当者によって優劣が激しい。

でも、取れる情報ってみんな同じなんですよ。世に溢れている。それを取りに行かない。時間がないとか、やる気がないとか。だったら、時間も短縮できて、どの情報を取ればいいかもわかる、「言い訳ができないツール」を作ってしまえばいい。そうすれば業界全体も変わるし、お客さんも幸せになる。AIが来るのはわかりきっている。だったら今の段階で、みんながAIを使いながら自分の能力を伸ばせばいいじゃないか、と。

これから——金融業界全体を、書き換えていく

マネタイズより、「業界を変えに行きたい」

——今後の展望を聞かせてください。

高桑さん:キャッシュエンジンは、変わらず受託開発業です。利益率も顧客単価も高いので、事業を引っ張るのはここ。

ただ、IFAIに関しては、正直マネタイズよりも「証券業界、ひいては金融業界全体を変えに行きたい」という思いの方が強いんです。足元、対面証券は富裕層ビジネスにピボットしている。その結果、マス層へのアプローチが不十分。その点、低コストで専属のAI証券マン、つまりIFAIがto C向けでバリューを発揮する領域だと考えています。また、金融業界全体で考えると、金融リテラシーを備えた、保険マンが必要になると考えています。それくらいインパクトのあるツールだと本気で思っているので。みんながお客様にいい情報を伝えられて、お客様も幸せになって、金融から国内経済を盛り上げていけたら、一番いい。それができるのも、受託開発がうまくいっているからではあるんですけどね。

いつかは、チャーハン専門店と財団を

高桑さん:個人としては——ふざけてると思われるかもしれないんですが(笑)、本当に中華料理屋さん、チャーハン専門店をやりたくて。500円でお腹いっぱい食べられる店。これも結局「誰かに幸せになってほしい」という自分の話なんです。野村を辞めるとき、後輩に中華鍋をもらったので(笑)。

もうひとつは財団。寄付財団を作りたい。たとえばチョコレート。ガーナの生産者は、自分が作ったものがどこでどう活かされているか、目にも耳にもできない。中小企業の人が頑張れる理由って、自分が作った部品を載せた車が目の前を走っている、社会貢献を実感できることなんですよ。これからの人間の幸福感って、やりがいであり、社会貢献だと思う。商品の向こう側にいる人を笑顔にできているという実感——それを、もっと多くの人に感じてもらえたら、いい世界になるんじゃないかな、と。

挑戦の一歩が踏み出せない人へ——「自分を、見つめ直してほしい」

環境を変える前に、中身を変える

——「挑戦したいけど一歩が怖い」という読者に、メッセージをお願いします。

高桑さん:みんな、環境をすごく変えたがるんですよ。外見ってすぐ変えられるから。コールドシャワーとか、筋トレとか、「成功してる人の真似」みたいに、すぐできることに飛びつく。でも、中を変えないと根本的な解決にはならないと思っていて。

「独立したいけど一歩踏み出せない」という人は、まず自分の思い、考え、なぜそう思っているのかを、一度言語化してみてほしい。思い悩んで踏みとどまっているということは、絶対に自己分析ができていないんです。自分がバリューを発揮できる領域がわかっていないか、自分のビジネスに自信が持てていないか。まずそこに気づける。

ドライヤーは、建設現場では穴を掘れない

高桑さん:成功している人の表面を真似するより、「なぜこの人は成功しているんだろう」と分析、分析、分析していけば、絶対に自分の考えはまとまるし、一歩踏み出せます。

僕がよくする例えなんですけど——ドライヤーって、乾かす機能がある。それが活きるのは美容院やお風呂、銭湯です。でも、ドライヤーを建設現場に持って行って「穴を掘れ」と言っても、まったくバリューを発揮できない。人も同じで、自分の基礎機能、スキルがどこで活きるのかを理解して、その場所を選ぶ。

だから「置かれた場所で咲きなさい」は、僕は違うと思っているんです。自ら環境を選択して、仕組みを作る。儲かる仕組み、自分が働いていて楽しい仕組みに変えに行く。それが、一歩を踏み出すということなんじゃないかなと思います。

承認欲求を、後ろめたいものとして隠すのではなく、「誰かを幸せにできる自分の強み」として磨き上げる。徹底した自己分析の末に自分の輪郭をつかんだ高桑さんが、AIで金融業界を書き換えようとしている。その挑戦の根っこにあるのは、「商品の向こう側にいる人を笑顔にしたい」という、どこまでもシンプルな動機だった。

会社概要

会社名:株式会社nicosphere

設立:2023年12月

代表:代表取締役CEO 三浦 莉

事業内容:生成AIコンサルティング・導入支援・開発/AIプロダクトの開発・提供・運用(IFAI、NicoScan)

所在地:東京都世田谷区玉川3-36-6

取材・文:黒澤優一(株式会社One Rep)

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